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名古屋地方裁判所 平成2年(ワ)2755号 判決 1997年7月09日

愛知県春日井市<以下省略>

原告

合資会社ウエスタン

右代表者無限責任社員

右訴訟代理人弁護士

松本篤周

森山文昭

渥美雅康

仲松正人

加藤美代

名古屋市<以下省略>

被告

名古屋中遊技場防犯組合

右代表者組合長

右訴訟代理人弁護士

山岸赳夫

成田龍一

辻徹

右訴訟復代理人弁護士

栁田潤一

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一 請求の趣旨

1 平成元年9月8日開催の被告臨時総会兼9月定例会において、被告が同日付で行った「合資会社ウエスタンを、名古屋中遊技場防犯組合規約第27条及び第28条に基づき組合から除名する。」との決議は、無効であることを確認する。

2 被告は、原告に対し、100万円及び平成3年9月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 被告は、被告の組合員に対し、別紙の通知を発送せよ。

4 訴訟費用は原告の負担とする。

二 請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一 請求原因

1(一) 原告は、遊技場の営業等を目的とし、公安委員会の認定した遊技機(パチンコ・スマートボール・コリントゲーム・雀球等)を使用して遊技場を営む事業者(以下「遊技場業者」という。)であり、昭和40年ころに被告が発足した当時から、被告の組合員であった者である。

(二) 被告は、名古屋市中区(以下、単に「中区」という。)内の遊技場業者をもって組織され、組合員のために必要な共同事業を行うことにより、組合員の自主的な経済活動を促進し、かつ、その経済的・社会的地位向上を図ることを目的とする団体である。

2(一) 被告は、左記の条項を含む組合規約(以下「被告組合規約」という。)を定め、現金との交換用のパチンコの景品(以下「特殊景品」という。)については、被告組合員はすべて愛産商会株式会社(以下「愛産商会」という。)から購入するという、いわゆる団体取引契約(以下「本件団体取引契約」という。)を愛産商会との間で結び、被告組合規約において左記のとおり定め、被告組合員に右契約に従うことを求めている。

27条 組合員に、組合の統制を乱し、組合で定めた遵守事項に従わず、あるいは組合の目的ないし業界の発展を阻害する行為のあったときは、役員会の議決を経て総会に諮り、当該組合員に対し次の懲戒処分をすることができる。

(1) 謝罪金の賦課

(2) 除名

ただし、除名については、出席組合員の3分の2以上の賛成による。

28条 組合員の結束した行動を確保するため組合が総会の決議に基づき締結した団体取引契約に従わず、組合の是正勧告にも従わないで団体取引契約以外の景品取引を行った組合員は、前条により組合から除名される。

(二) 原告は、昭和62年6月ころから、従来契約していた愛産商会との特殊景品取引契約を解除し、愛産商会と同業者である六月産業有限会社(以下「六月産業」という。)との間で取引を開始した。

(三) 被告は、平成元年9月8日開催の臨時総会兼9月定例会において、原告が本件団体取引契約に従わないことを理由として、前記第一の一1記載の決議をし、原告を被告から除名した(以下「本件除名処分」といい、右被告組合規約27条及び28条を「本件規約」という。)。

3(一) 被告は、業界の発展と組合員の経済的地位の向上を目的とする団体であって、事業者として共通の利益を増進することを主たる目的としているから、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)の定める「事業者団体」に該当する。

(二) 本件団体取引契約による取引は、中区という共通の取引の地域内で、特殊景品という同種の商品について、特殊景品販売業者という共通の取引の相手方との仕入段階という共通の取引段階におけるものであるから、独占禁止法の定める「一定の取引分野」に該当する。

なお、特殊景品市場は、直接的には被告の構成事業者である組合員が属している市場ではないが、被告の構成事業者である組合員らの取引の相手方である特殊景品販売業者の市場であり、そこにおける競争を被告が実質的に制限することは可能であるから、この場合も「一定の取引分野」という概念に該当すると解される。

(三)(1) 被告は、中区内において、原告が除名される以前から今日に至るまで、原告を除くすべての遊技場業者を例外なく組織している。

(2) 被告は、被告組合員に対し、愛産商会以外の景品業者と取引をした組合員を除名するという強制手段をもって、愛産商会との本件団体取引契約を強制しているが、被告から除名されるという処置は、以下の理由により極めて強力な強制手段となっている。

ア パチンコ機械についてはAMマークという制度がある。これは、昭和61年に、業界の自主的な発意に基づき発足したとされる制度であるが、遊技場業者が営業所に設置するパチンコ等の遊技機が、公安委員会の検定した型式に属する適正なものであること、すなわち改造したり変造したりしていないことを、自らの責任で、自主的にAM(Amusement Machine)マークを貼り付けることによって確認するというものである。

イ 右AMマークは、社団法人愛知県防犯協会連合会が1万枚単位で各区の遊技場防犯組合に販売するものであるが、遊技場業者が防犯組合を除名された場合、このAMマークを購入することはできなくなる。その結果、警察による公安条例に基づくパチンコ機械の検査に際し、機械にAMマークを貼付していないと、貼付している遊技場業者に比べて必要以上に長時間にわたる執拗な検査が行われるようになり、事実上パチンコの新台の入れ替えができなくなる。

また、防犯組合への所属は、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風俗営業法」という。)に基づく警察からの行政指導の概括的な信頼の前提となっているため、防犯組合に加入していないと、警察から厳しい行政指導を受けるようになり、経営に重大な障害をもたらす。

(3) 本件団体取引契約は、以下のとおり、特殊景品の独占価格の形成の役割を果たしてきたことは明白である。

ア 一般に遊技場業者が遊技客に渡す景品のうち、特殊景品が占める割合は9割以上にのぼっており、遊技場営業の中で景品といえば特殊景品のことを意味すると言っても過言ではない。このような特殊景品についてなされる仕入先の制限は、遊技場業者について、仕入価格を統制し自由な取引を制限する行為にほかならない。

イ 実際にも、右アの結果、これまで特殊景品の価格は全く同一の金額で、競争関係による値下げは一切存在しなかったし、被告も愛産商会に対し、値下げの要求をしたことがなかった。しかるに、原告が六月産業と取引を開始して以来、競争関係が生じ、初めて六月産業の値下げに対応した、愛産商会による仕入価格の値下げが2度にわたって行われた。このことからみれば、被告の行っている本件団体取引契約の強制は、特殊景品の独占価格の形成の役割を果たしてきたことは明白である。

(四) 以上によれば、事業者団体である被告は、中区内の全遊技場業者である組合員らの特殊景品についての取引相手を愛産商会1社に限定し、愛産商会と共同して相互に取引相手を拘束し、これを組合員に実施させることにより、特殊景品市場について100パーセントの市場支配をしているから、独占禁止法の定める「競争を実質的に制限する」ものに当たり、独占禁止法8条1項1号の規定に反するものである。よって、本件規約は、民法90条の公序良俗に反し無効であって、本件規約違反を理由とする本件除名処分は無効である。

4 商業は、工業その他の事業を行うものとして、独占禁止法の定める事業者に該当する被告の各組合員は、相互に他の組合員と共同して、本件団体取引契約を決定し、愛産商会以外の特殊景品業者からの特殊景品の購入を禁止し、相互に特殊景品の仕入先を制限することにより、その事業活動を拘束して特殊景品市場における競争を実質的に制限されている。右は「公共の利益」に反し、独占禁止法3条の定める不当な取引制限にも該当する。よって、本件規約は、民法90条の公序良俗に反し無効であり、本件規約違反を理由とする本件除名処分も無効である。

5 なお、被告は、請求原因に対する認否5のとおり、本件規約とそれに基づく本件除名処分は、暴力団の介入による業界の乱れを阻止し、暴力団排除の目的を達成するために必要不可欠の制度であると主張している。

(一)(1) しかしながら、独占禁止法8条1項1号の定める事業者団体が、一定の取引分野において競争を実質的に制限した場合には、そのこと自体公共の利益に反するものとして、公益性の有無を問わず、違法であるというべきである。

(2) また、仮に何らかの理由で右競争を制限することが許されるとしても、目的と関係なく無制約に競争を制限することが許されるわけではない。そして、暴力団と関係のない特殊景品業者は愛産商会に限定されず、また暴力団と無関係であることの保証がある特殊景品業者が複数あっても、暴力団排除の目的は達成できるのであるから、暴力団を排除する目的が、手段としての愛産商会1社との本件団体取引契約の強制に必然的に結びつくものではない。

実際、本件のような団体取引契約は全国的にも例がなく、このような団体取引契約を締結しているのは、愛知県内でも名古屋市内、一宮市内、東海市内の業者だけで、豊田市を初めとする愛知県内の他の業者団体では、複数の特殊景品業者が各遊技場業者と取引を行っているが、暴力団の介入などの弊害は生じていない。また、特殊景品以外の景品については、一切取引業者の限定は行われていないのもこのことの証左である。

なお、原告と特殊景品取引を行っている六月産業は、暴力団との関係はない。

(3) したがって、昭和30年代に暴力団の介入を排除した草創期、たまたま名古屋市内で愛産商会1社に景品取引を独占させることで暴力団排除の目的を実現したからといって、その後40年が経過し、いわゆる暴力団新法により経済取引への暴力団関係者の介入を直接排除する手段が整備された現代において、暴力団排除を理由に、愛産商会1社に景品取引の独占を強制することは許されない。

(二) そして、愛産商会1社が景品取引を独占しているため、次のような弊害も生じている。

(1) 風俗営業法23条1項は、1号において、遊技場業者が現金又は有価証券を賞品として提供することは実質的に賭博行為に該当することからこれを禁止し、同条1項2号ないし4号においてこれらの脱法行為を禁止しているが、特殊景品についてのいわゆる3店方式とは、右の風俗営業法23条1項1号違反の評価を免れるために、遊技場業者とは独立した景品買取業者が客から景品を買い取り、さらに買取業者とは別の景品納入業者が遊技場業者に特殊景品を納入するというものである。したがって、風俗営業法違反の、遊技場業者が客に提供した商品を買い取るという事態が実質的に発生しているとの評価を回避するためには、遊技場の経営と景品買取業者・納入業者の経営との間には、厳格に独立が保たれなければならない。

(2) しかるに、被告の上部団体である愛知県遊技業協同組合連合会は、愛産商会から毎年500万円から600万円の金銭交付を受けているほか、同じく名古屋市遊技場協同組合は、愛産商会から昭和60年代に1、2度、何千万円かの金銭交付を受けている。これを評価すれば、外形的に3店方式という形式をとりながら、経済的な実態では、愛産商会が莫大な利益を独占する見返りとして、パチンコ店に業務の独占を強制している上部団体に金銭的な利益供与を行っているということとなる。そして、遊技場業者が被告を通じた本件団体取引契約により、愛産商会と一体となって、客に提供した商品を買い取っているのと実態は同じであり、巧妙な手口で風俗営業法の行為を行っていることにほかならない。

6 前記5(二)のとおり、本件団体取引契約は、風俗営業法違反とも評価されるべき遊技場業者と特殊景品業者の金銭的癒着の温床となるようなものであるから、独占禁止法違反の点を除いても、公序良俗に反し無効というべきである。

7 原告は、本件除名処分により、次のとおり営業上多大の損害を被り、かつ、その信用、名誉を著しく毀損され、その損害相当額は100万円を下ることはない。

(一) パチンコ店の営業上、パチンコ台の新台への入れ替えは、集客の手段として営業上極めて重要な意味を持っているが、原告が被告を除名されてから約1年後に、パチンコ台の一部について、新台を入れようとしたところ、納期の1週間前になって、機械メーカーが、所属する日本遊技機工業組合から、愛知県警防犯課の指示による口頭の申し合わせがなされ、除名された遊技場業者に機械を納入しないよう指示されたという理由で機械の納入を拒否してきた。

(二) 原告は、本件除名処分により、それまで新台入れ替えの際に必ず貼付していたAMマークの発行を受けることができなくなり、その結果、除名以前は、開店前に中警察署の防犯係の担当者が1人で5、6分簡単な検査をするだけだったのが、除名後は、愛知県警本部の担当者がパチンコ台の基盤を外すなど1時間にわたる検査をするようになった。

8 よって、原告は、民法90条により、本件除名処分が無効であることの確認を求めるとともに、被告に対し、民法709条、710条、723条により、損害金100万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成3年9月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払、並びに、原告の名誉回復のため、被告が被告の各組合員に対して別紙のとおりの通知を送付することをそれぞれ求める。

二 請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実は認める。

3(一) 同3(一)のうち、被告が業界の発展と組合員の経済的地位の向上を目的とする団体であることは認めるが、その余の事実は否認する。

独占禁止法3条は、「事業者団体」による一定の活動を、競争の排除、取引制限という経済活動の観点から規制しようとするものである。他方、被告は、遊技場店舗の地域別任意団体であり、専ら遊技場における防犯すなわち暴力団の介入の排除や、暴力行為、風紀上の問題の予防・抑止を設立目的とするものである。そして、被告は、各遊技場が組合を通じることによって適切かつ迅速な情報を得、これに基づいて効果的な防犯対策を講ずることが可能となる便益や、漏れなく警察の防犯指導ないし監督を受け、また警察官の立ち寄りや巡視等を受けて遊技場内における窃盗、暴行、その他非行を抑止し、また力を合わせて遊技場営業に対する暴力団関係者の介入を阻止するという便益を獲得するために組織された任意団体であり、その目的達成に不可欠な方策として、かつ、その目的の範囲に限定して、特殊景品の統一した取引方針を採用しているに過ぎないから、被告は、独占禁止法の定める「事業者団体」に該当しない。

(二) 同3(二)は争う。

(1) そもそも、愛産商会は、後記5(一)のとおり、暴力団排除の目的を達成しつつ、遊技客らの換金ニーズに応えるべく設立された独立の会社であり、遊技場業者側がその換金業務を委託するために創設した存在に過ぎず、遊技場業者側からの委託の趣旨に反し、特殊景品の卸売価格等を独自に決定することは事実上できない。また、愛産商会の商品価格の変動についても、特殊景品の価格の改訂は、組合員の合意に基づく団体取引契約の改訂に過ぎず、もともと組合員の意思を他律的に制約して価格を設定しているものではない。以上のとおり、特殊景品取引は自由競争原理による価格決定になじまない特殊な取引で、独占禁止法の規制対象となる取引ではない。

(2) 仮に特殊景品取引が独占禁止法の規制対象となるとしても、独占禁止法の定める「一定の取引分野」とは、商品等の需要と供給をめぐって事業者間に競争が行われる「市場」を意味するところ、これは、供給事業者側から見た供給市場と需要者側から見た需要市場というものを観念することができる。しかるところ、供給市場については、被告はその構成事業者ではないから、そのような場合、上下関係により当該市場を支配することが可能な特段の事情がある場合に限って、右の「一定の取引分野」について「競争を実質的に制限する」ことが可能となり、独占禁止法8条1項1号に該当するものと解すべきところ、前記(一)のとおり、被告は任意団体に過ぎず、各組合員が組合を脱退して他の景品卸業者と取引をすることを禁ずることはできず、被告が右供給市場を支配することは不可能で、「競争を実質的に制限する」ことはできないから、被告にとって、供給市場である景品卸業者側の市場は「一定の取引分野」という概念にも該当しない。

また、遊技業者側の「需要市場」において「競争の実質的制限」が行われているかの点については、後記(四)(3)のとおりである。

(三)(1) 同(三)(1)は認める。

(2) 同3(三)(2)のうち、頭書部分は争い、アは認め、イは不知しないし否認する。

新台の納入及び検査は、日本遊技機工業組合及び警察が独自に判断するところであって、被告とは無関係である。また、遊技機は、公安委員会の検定を受けた適式のものでなければ設置できないのであるから、遊技場業者が遊技機購入後に改変していないかを警察が1台1台検査したからといって、問題とすべき事柄ではない。

なお、現在ではこれらの不利益は消滅しており、この点からも、被告が本件団体取引契約を強制している事実はない。

(3) 同3(三)(3)のうち、頭書部分は争い、アは不知しないし争い、イのうち、原告が六月産業と取引を開始した以後に愛産商会からの仕入価格の値下げが行われたことは認めるが、その余は否認ないし争う。

(四) 同3(四)は争う。

(1) 本件団体取引契約は、被告に属さない他の遊技場業者が特殊景品を購入することを許さないという拘束をしているわけではない。

したがって、被告は、被告に属さない、他の遊技場業者が「需要市場」に参入すること自体は阻害していない。

(2) また、原告は、遊技場業者が、他の景品卸業者から、より安価な景品を購入することにより、サービスを向上させることが阻害されている旨主張する。しかし、遊技客に対するサービスの向上は、あらゆる面の工夫、努力で可能であり、景品を多少安く仕入れることは、その1つに過ぎないもので、その阻害の程度は極めて低い。他方、本件団体取引契約は、暴力団排除という正当な目的のために必要不可欠な換金システムの枢要部分であり、また暴力団を排除することは遊技客に対する最大のサービスの提供に繋がるものである。

(3) なお、これまで愛産商会が業務独占を盾に卸売価格を一方的に引き上げるなどしたことはなく、むしろ、昭和50年代のいわゆるフィーバー機導入の際の特殊景品の流通量の増大に伴い、随時値下げがなされてきている。

(4) 以上の事情を総合考慮すると、本件団体取引契約は、独占禁止法上、遊技場業者の「需要市場」における「競争を実質的に制限する行為」にも該当しない。

4 同4は争う。

原告は、独占禁止法3条及び8条1項1号が重畳的に適用されると主張するが、そのように解すると、常に事業者団体及び構成事業者双方に対して排除措置ができることになってしまう。しかし、独占禁止法8条1項1号に該当する場合に、事業者団体に加えてその構成事業者に対しても排除措置を行うことができるのは、同法8条の2第3項により、「特に必要あると認めるとき」に限られており、原告の主張する右のような解釈は、同法8条の2第3項を別途設けた意味を没却するものである。

独占禁止法8条1項1号は事業者団体が主体であり、同法3条は事業者が主体であるから、形式的に両条項に該当する場合でも、事業者団体が中心となって競争制限行為を行っているときには、同法8条1項1号が適用され、各事業者が中心となって競争制限行為を行っているときには、同法3条が適用されると解すべきである。そして、本件団体取引契約について右のような観点から考察すれば、専ら独占禁止法8条1項1号の問題であると解すべきである。

5(一) もともと特殊景品を現金化する行為は、遊技客のニーズに基づくものとして抑圧しきれないものであるが、賭博的要素を含むと解される余地がある。ところで暴力団は、昭和30年ころから、遊技客から景品を買い取ってこれを遊技場業者に売り付け、資金稼ぎの手段とするようになっていた。そのため、警察当局が、パチンコ業界に暴力団排除を強く要請し、パチンコ業界が健全な換金システムを確立しない限り、景品の買い取りが一切禁止されるおそれがあった。しかし、暴力団の動きも禁圧し切れないため、暴力団関係者の行為を排除する方策としては、遊技場業者の結束による自衛しかとり得る方途がなかった。このため昭和30年前後に、組合の組織を通じて警察や防犯連絡協議会等の防犯対策と協調するため、被告と同様の遊技場防犯組合が名古屋市内各区に結成され、さらに、特殊景品については、警察の指導を受けながら、暴力団と関係のない菓子業者が集まって愛産商会を設立し、全店の換金業務を委託することになった。この際、各店毎に愛産商会と個別取引をすることも考えられたが、暴力団という非合法集団に十分な対抗力を備えるには、全店が集団で行動し、自衛することが必要不可欠であったため、組合員の総意で一定の販売業者から購入することに決定し、団体取引契約という方法が選択された。これをもってようやく暴力団関係者等による不法不当な売込みを排除し得たのである。右団体取引契約は、もともと名古屋市遊技場協同組合と愛産商会の間で締結されていたものであるが、団体契約を守らない遊技場業者に対し、除名等の方法で強く対処することも可能な、任意団体である被告が主体となった方が妥当との判断の下、昭和57年以降は被告と愛産商会の間で本件団体取引契約が締結されることになった。しかし、取引主体が変更されても、右の趣旨に変わりはない。

(二) このように、団体取引契約による取引は、被告が防犯目的をもって設立された使命の中の最も重要な事項であって、原告をも含めた業界内部の秩序を維持し、かつ、暴力団などの外部勢力の介入による業界の乱れを阻止するため不可欠のものである。独占禁止法の保護法益に照らしても、暴力団排除の要請は絶対的なもので、一般消費者の利益を守ることにも資する。このような合意は今なお健在で、未だ団体取引契約を複数にするとか、各自の自由な取引に任せるということを是認する組合員は、原告を除いておらず、原告がこの組合の方針を受け入れられないとして単独行動に走ることは、他の組合員の容認できるところではない。

6 同6は争う。

7 同7の頭書部分は否認し、同(一)、(二)の事実は知らない。

第三 証拠の関係は、本件記録中の証拠に関する目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一 請求原因1及び2の各事実は、当事者間に争いがない。

二1 当事者間に争いのない事実に、成立に争いのない甲第2、第3号証、第4号証の1、2、乙第4号証の1、第6ないし第9号証、第11、第12、第14号証の各1、第13号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第5、第6、第23号証、乙第15、第16号証、証人C、同D及び同Eの各証言、原告代表者本人の尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められ、右の認定を左右するに足りる証拠はない。

(一) 被告は、昭和30年代前半ころ、名古屋市内の遊技場業者が各区警察署単位に集って設立された任意団体のうち、中区において設立されたものを前身として、昭和40年10月23日に現在の組合となったものである。

法は、遊技場業者が遊技客に提供した景品を買い取ることを禁止しているが、景品の買取りを希望する遊技客のニーズに応えるため、遊技場業者が、法を潜脱する形で、事実上、景品を買い取る例もあったところ、この点に着目した暴力団が遊技客から景品を買い取り、景品を再び遊技場業者に買い取らせる取引を行うようになり、それを暴力団の資金源とすることが広まって行った。このため暴力団が、景品を買い取らない遊技場業者に対し、脅迫を加えたり、業務妨害をしたり、また暴力団同士が縄張争いから対立抗争するなどの問題が発生した。このような事態に対処するため、遊技場業者が集まり、警察との連携を強く持ち遊技場の防犯を推進することを目的として、被告が設立された。

(二) 被告は、中区防犯連合協議会との密接な連絡の下、組合員相互の親睦を図りつつ、遊技場にかかわる防犯思想を普及し、業界の発展と組合員の経済的向上を図ることを目的と定め、実際に遊技場における防犯を目的として、月1回の定例会及び年1回の総会を開いて、警察からの指示事項の伝達等を行っているほか、愛知県風俗環境浄化協会が発行し、パチンコ等の遊技機が公安委員会の検定した型式に属する適正なものであることを自らの責任で自主的に確認するAMマークの販売を行ったりしている。

(三) 被告は、中区内に存在する、パチンコ、スマートボール、スロットマシーン及びこれと類似の遊技場業者をもって組織されている。中区内に1店舗を営業する者についてはその経営者又は会社代表者が、複数の店舗を営業する者においては、1店舗については経営者又は会社代表者が、他の店舗については経営者又は会社代表者が指定して組合に届け出た者が被告の組合員となる。被告の組合費は、被告の定例会において支払うこととなっており、その組合費の中には名古屋市遊技場協同組合及び愛知県遊技業協同組合連合会に対して支払う組合費も含まれている。

(四) 名古屋市遊技場協同組合は昭和35年10月4日に、愛知県遊技業協同組合連合会は昭和55年に、それぞれ中小企業等協同組合法に基づき設立された法人格をもった協同組合である。愛知県遊技業協同組合連合会は、名古屋市遊技場協同組合ほか5協同組合の連合体であり、愛知県遊技業協同組合連合会は愛知県内の遊技場業者に、名古屋市遊技場協同組合は名古屋市内の遊技場業者に、それぞれ組合員となる資格がある。

(五) 被告組合規約(甲第2号証)上は、被告は、名古屋市遊技場協同組合に所属し、被告の理事は、愛知県遊技業協同組合連合会及び名古屋市遊技場協同組合の各理事となり、右各協同組合の理事会に出席して必要事項を審議するものとされている。そして、被告を含めて、名古屋市内各区の遊技場防犯組合から選ばれた代表者らが右各協同組合の理事となり、これらの者により、右各協同組合の理事会が構成される。また、名古屋市遊技場協同組合には各区毎の支部等はないが、愛知県遊技業協同組合連合会の会員名簿では、名古屋市遊技場協同組合の代わりに名古屋市内の各区の遊技場防犯組合が記載されているなど、愛知県遊技業協同組合連合会ないし名古屋市遊技場協同組合の支部的な組織として、名古屋市内各区の遊技場防犯組合が、それぞれの地区を単位とする協議場としての役割を果たし、その場で、愛知県遊技業協同組合連合会及び名古屋市遊技場協同組合の各理事会における決定事項を伝達することになっている。さらに、前記(三)のとおり、愛知県遊技業協同組合連合会及び名古屋市遊技場協同組合の各組合費の徴収は、被告の組合費と共に徴収され、それ以外払い込む機会はなく、現に原告が被告を除名されてからは、原告は愛知県遊技業協同組合連合会及び名古屋市遊技場協同組合に対する組合費を支払っておらず、右各協同組合から請求もされていない。

なお、被告の事務所は、愛知県遊技業協同組合連合会及び名古屋市遊技場協同組合と同じ場所にあり、事務員も共通である。

(六) 被告は、規約上は、あくまでも愛知県遊技業協同組合連合会や名古屋市遊技場協同組合とは別団体と規定されており、会計も独立している。また、遊技場防犯組合の組合員が当該遊技場防犯組合を脱退又は除名されても、愛知県遊技業協同組合連合会及び名古屋市遊技場協同組合を脱退又は除名されたことにはならない。現実に、原告は、被告を除名されたが、今なお愛知県遊技業協同組合連合会及び名古屋市遊技場協同組合の組合員となっている。

2 ところで、独占禁止法の事業者団体に該当するというためには、その団体が事業者としての利益を増進することを目的としなければならないが、右にいう事業者の利益とは、団体を構成する構成事業者の個別的、具体的な利益のほか、団体の一般的、抽象的な利益に、間接的に寄与するものであっても、足りるものと解される。そうだとすると、たとえ当該団体が公共目的を達成することを目的とするものであっても、それのみではただちに右団体が、事業者団体に当たらないということはできず、それが構成事業者としての利益の増進に役立つこととなる場合には、事業者の利益を増進することを目的とするものといえるから、事業者団体に該当すると解すべきである。

3 前記1のとおり、被告は、中区内の遊技場業者を構成員とする任意団体であり、愛知県遊技業協同組合連合会及び名古屋市遊技場協同組合の理事会に被告を含めた名古屋市内の遊技場防犯組合の代表者が出席し、そこでの意思決定が組合員に伝達され、被告が右各協同組合の組合費を徴収するなど、被告は、右各協同組合の支部的組織として活動する側面を有するが、あくまでも、法形式上も会計上も右各協同組合とは独立した団体であり、しかも被告それ自体が、組合員たる各事業者とは別個のものと識別できる社会的存在としての恒常的組織を有する社団である。

そして、被告は、その目的として、中区防犯連合協議会との密接な連絡の下に、遊技場にかかわる防犯思想を普及し、業界の発展と組合員の経済的向上を図ることを掲げ、実際にも、警察からの指示事項の伝達を行うなど、警察との密接な連絡を保ちつつ、遊技場に対する暴力団の介入阻止等遊技場における防犯を目的として活動している団体であるが、右目的は遊技場業者が営業を行う上で密接に関連することであるし、実態としても愛産商会との間で本件団体取引契約を締結し、被告組合員規約(甲第2号証)をもって、被告組合員が特殊景品を仕入れるについて愛産商会とのみ取引を行うべきものと定めているのであるから、右目的は、たとえ防犯という、一面において公共的な目的を有しているとはいえ、その実態において、被告を構成する遊技場業者の営業利益に寄与するものであるといえる。

以上によれば、被告は、独占禁止法2条1項1号にいう事業者団体に該当するというべきである。

三 当事者間に争いのない事実及び前記二1認定事実によれば、本件団体取引契約は、中区に店舗を有する被告組合員が特殊景品を仕入れるに当たり、本件規約により愛産商会とのみ取引することを約束しているものであるところ、独占禁止法上の「一定の取引分野」とは、取引を制限する行為との関係で決定されるものであるから、本件のように規約によってその取引を制限する範囲及び実際に制限が及んでいる範囲が決まっている場合には、その規約が対象とする範囲ないしそれによって制限が及んでいる範囲が一定の取引分野といえ、右事実関係の下においては、一定の取引分野は、中区における特殊景品取引業者から遊技場業者への特殊景品に関する取引であると解するのが相当である。

四1 当事者間に争いのない事実に、前記甲第2、第5、第6、第23号証、乙第6ないし第9号証、第11、第12、第14号証の各1、第13、第16号証、成立に争いのない甲第1号証、第38ないし第40号証、乙第2号証の1、2、第4号証の2、第5号証、第10号証の1、2、第11、第12、第14号証の各2、原本の存在及び成立に争いのない甲第36、第37号証、証人Eの証言により成立を認める乙第3号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第7ないし第17号証、乙第1号証、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立を認める乙第18号証、証人C、同D、同F1ことF及び同Eの各証言、原告代表者本人の尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められ、この認定に反するかのように理解される証人F1ことF及び原告代表者本人の各供述は、これとは反対趣旨の前掲各証拠(ただし、右各供述部分を除く。)に照らして採用することができず、他に右認定を覆すに足りる的確な証拠はない。

(一)(1) パチンコ遊技は、昭和30年ころには、国民の娯楽として定着するようになっていたが、この時期は戦後の混乱期ということも相まって、暴力団が遊技場に接近し、用心棒代を徴収するなどしている状況にあった。当時から遊技場業者が遊技客から景品を買い取る行為は禁止されていたが、パチンコ遊技が普及するに伴って、遊技客の中に景品の買い取りを希望する者が出てくるようになると、遊技業者の中には、法を潜脱する形で、事実上、景品を買い取る者も出てくるようになった。この点に着目した暴力団は、遊技客から景品を買い取り、遊技場業者にこれを再び買い取らせるという方法によって、暴力団の資金源の1つとするようになった。このような方法によれば、遊技場業者は、法律に直接違反せず、遊技客からの要望の強い景品交換を実施でき、しかも暴力団から景品を購入する方が一般に景品を購入するより安く仕入れることができたことから、遊技場業者と暴力団の結びつきは強くなっていった。しかし他方、暴力団同士が遊技場業者との景品取引を巡っていわゆる縄張争いを行い、喧嘩や拳銃発砲事件等が発生するようになったほか、暴力団から景品を買い取らない遊技場業者に対し、暴力団が、遊技場業者や遊技客を脅すなどの業務妨害行為をしたりした。

(2) 警察は、パチンコ業界のこのような状況を排除するため、遊技場業者らに暴力団の排除を呼びかけ、これに呼応した名古屋市内各区の遊技場業者らは、昭和30年代前半、警察との連携を強くし、有効に暴力団排除を行うために、市内の警察署の管轄区域に対応して遊技場防犯組合を設立したが、すぐには右のような事態は改まらず、ほとんどのパチンコ店に暴力団が進出しているという状況が昭和34年ころまで続いていた。警察は、これを黙視することができず、パチンコ業界に暴力団との関係を排除し、暴力団から景品の買い取りをしないよう強く求めてきた。防犯組合も、これに対応して暴力団排除の決議をするなどしたが、それだけでは、右の状況は改まらず、右のような状況が続くようでは景品の買い取りそのものが一律的に禁止されるおそれもあり、そのような事態に至ればパチンコ業界の盛衰にかかわることでもあったので、暴力団の介入を排除しながら景品を換金できるようにし、しかも自家買い禁止の法規制に違反しない方法が求められた。

(3) そこで、昭和35年5月24日、暴力団と無関係の菓子業者8社が集まり、景品買取会社である愛産商会を設立した。この時点で、愛産商会が遊技客から特殊景品を買い取り、買い取った特殊景品を各パチンコ店に売るという、いわゆる2店方式が始まった。

その後、2店方式では、愛産商会とパチンコ店との間で特殊景品が往復するだけで、法律違反のおそれを十分クリアしたものとはいえず、自家買いに近いという指摘があったことから、景品買取業者として協立産業株式会社(以下「協立産業」という。)が昭和38年3月に設立され、これによって、協立産業は遊技客がパチンコ玉と交換した特殊景品を買い取り、これを愛産商会に販売し、愛産商会が各パチンコ店に納入するという、いわゆる3店方式が確立した。

(4) 3店方式が確立された後も、なお暴力団から特殊景品を購入する者がおり、愛産商会から特殊景品を買うパチンコ業者に対しては妨害等があったことから、パチンコ業界が一丸となって集団として暴力団に対抗することとし、昭和38年3月1日、名古屋市遊技場協同組合が愛産商会との間で、右協同組合の組合員は愛産商会のみから特殊景品を購入するという団体取引契約を締結することとした。

右団体取引契約は、名古屋市遊技場協同組合が愛産商会から特殊景品を一括購入し、名古屋市遊技場協同組合の組合員から買い付け注文があった場合には、現金と引き換えに特殊景品を渡すというものであり、これにより組合員が特殊景品を買う業者は愛産商会1社に限定された。

その後昭和57年ころ、再び外部からの景品買い取りの動きが盛んになってきたが、名古屋市遊技場協同組合の規約では、団体取引契約の取り決めに違反した業者に対し強い処分をすることが難しく、また規約改正にも多大な労力を要することから、愛知県遊技業協同組合連合会の緊急理事会の決定に基づき、団体取引契約の取り決めに違反した場合に除名処分により対処することができるように、中区内の遊技場業者については、名古屋市遊技場協同組合に代わって、被告が右団体取引契約を締結することとなり、昭和57年8月11日、被告と愛産商会との間で、本件団体取引契約が締結されるに至った。なお、名古屋市内各区の被告を除く遊技場防犯組合も同様の措置をとった。

被告は、右契約締結に当たり、特に正式に総会に諮るということはしなかったが、団体取引契約締結に至った経緯から組合内における重要事項として了解され、右契約は組合員間で守られてきた。

(二) なお、右のような団体取引契約による取引の制限は、遊技場業者が遊技客に対して交付する現金交換用の特殊景品に限るもので、菓子、缶詰等の一般景品については、取引業者の制限は行われていない。しかし、現実に遊技場業者の扱う景品は、そのほとんどすべてが特殊景品である。

(三)(1) 原告は、昭和62年6月ころ、被告に通告なく、価格単位が安いという理由で、六月産業から特殊景品を購入するようにした。

(2) これに対し、被告は、原告の右行動は組合員の結束を乱すおそれがあるとして問題視し、昭和62年7月6日、被告組合長が臨時総会を開催し、被告組合員が集まって協議し、原告に対し、六月産業との取引を中止することを求める旨決議し、愛産商会との間の本件団体取引契約に戻るように要請した。しかし、原告はこれに応じなかったため、その後、被告は、原告に対し、中止勧告、脱退勧告等を繰り返し行った。

また、昭和62年12月15日、被告組合規約の改正が行われ、規約上、被告組合規約28条として、本件団体取引契約に反する取引を行った組合員に対し除名処分を行う旨明記された。

(3) しかし、原告は六月産業との取引を継続したため、被告定例会において、再び原告に対し愛産商会との本件団体取引契約に戻るよう要請がなされた。そうするうちに、被告組合員の中から、説得ばかりしているだけでは、組合員の結束が乱れるおそれがあり、除名したほうがいいという意見が出てきた。

また、愛知県遊技業協同組合連合会理事会においても、景品問題は業界における重要問題で、業界が繁栄するためには組織の団結が必要であるとの趣旨の申し合わせが改めてなされたことから、被告は、名古屋市遊技場協同組合とも相談の上、原告に対し、平成元年8月末日までに本件団体取引契約に戻るよう是正勧告するとともに、これに従わない場合は除名処分する旨警告した。原告は、右是正勧告にも従わなかったことから、被告は、平成元年9月8日、臨時総会兼9月定例会が開催された際、討議の上、記名方式で採決したところ、原告を除く全組合員の賛成が得られたので、原告は被告から除名された。

(4) なお、原告と同様、団体取引契約に従わない遊技場業者は、現在、名古屋市内に数名あり、また、現在、名古屋市内には約400余りのパチンコ遊技場がある。

2 ところで、独占禁止法にいう実質的な取引制限とは、競争自体が減少して、特定の事業者又は事業者集団が、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他諸般の条件を左右することによって、市場を支配することができる形態が現われているか、又は少なくとも現われようとするに至っている状態をいうが、右1認定の事実に、前記二1及び三認定の各事実を総合すると、被告は、中区内に店舗を有する遊技場業者のうち、原告を除いたすべての遊技場業者をその構成員として組織されている団体で、そのような被告が、組合員に対し、遊技場において扱う景品の大部分を占める特殊景品について、その仕入れを愛産商会1社に限定し、本件団体取引契約に従わない組合員に対しては、組合から除名する等の不利益な処分をとることにより、各組合員に愛産商会との間で特殊景品取引を行わせているという取引制限の態様、これに加えて、名古屋市内の各区の遊技業者も各区の遊技場防犯組合を組織し、被告と同様に規約ないし組合の決議をもって本件と同様に愛産商会との間の団体取引契約を行わせ、団体取引契約に従わない遊技場業者は、名古屋市内の約400余りの遊技場のうち数軒に過ぎないという市場の状況と、名古屋市内の各区の遊技場防犯組合が、名古屋市遊技場協同組合及び愛知県遊技業協同組合連合会の実質的な支部として、これらの協同組合を通して事実上密接なつながりを持っているという実態を総合考慮すれば、被告が被告組合規約により本件団体取引契約に従うことを定めていることは、実質的な取引制限に当たるといえないこともない。

3 しかし、独占禁止法に違反する行為であっても、その違法性の程度には自ずから軽重があるところ、独占禁止法は、公正で自由な競争を促進するなどして、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とし、その目的達成のために、専門的機関である公正取引委員会によって、当該行為が独占禁止法に違反する場合に、その違法状態の収拾排除を図るため勧告、差止命令を出すなどして、その行為に照らした弾力的な行政措置をとることを予定していることに鑑みれば、単に当該行為が独占禁止法に違反するという一事をもって、当該行為の違法性の程度にかかわりなく、私法上一律に無効と解することは相当ではなく、問題となっている独占禁止法の規定との関係で、当該行為の目的、態様等諸般の事情に照らし、当該行為が公序良俗に反するか否かを判断することにより、当該行為の有効性、無効性を判断するのが妥当である。

そこで、これを本件について見るに、前記2説示のとおり、被告が、被告組合員に対して本件規約をもって本件団体取引契約に従わせていることは、実質的な取引制限に当たるといえなくはないが、前記1認定事実のとおり、本件団体取引契約は、そもそも遊技場業者が暴力団との関係を排除するため、中区内の遊技場業者のすべてが特殊景品については愛産商会のみから購入することによって集団の力をもって暴力団と対抗し、その目的を達成するために始められたものであり、たとえ現時点において暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律による規制等が存在するに至ったとしても、現在でも暴力団に対して集団の力をもって対抗する必要性を否定し切ることはできず、そのために取引相手を1社に限定して、一般企業に名を借りた暴力団の参入を排除することはあながち不合理な方法であるとはいえない。また、弁論の全趣旨及びこれにより成立を認める乙第21号証によれば、愛産商会との間の本件団体取引契約に基づく特殊景品価格は、パチンコ台にフィーバー機が導入され、特殊景品の取引量が多くなるにつれて、漸次下がってきていることが認められ、被告が、本件団体取引契約の目的を超えて価格支配を行っている等の事情は、少なくとも現時点では、本件全証拠を検討しても、これを認めるに足りない。これらに加えて、前記二3説示のとおり、被告はあくまでも任意団体であり、これに参加するかどうかは自由であること、証人Cの証言により認められる、現在被告に所属していないことによる不利益は、事実上もなくなっていること等の事情を総合考慮すれば、被告が、被告組合員に対し、本件規約をもって本件団体取引契約に従わせることが公序良俗に反するとは未だ認められない。よって、本件規約が無効であるとはいえない。

4 さらに、原告は、請求原因5のとおり主張するので、この点に検討を加えておくことにする。

前記甲第36、第37号証、乙第7ないし第9号証、第13号証、成立に争いのない乙第20号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第43号証、証人G、同Eの各証言によれば、豊田市を初めとした愛知県内の遊技場業者団体には、複数の景品業者と取引をしているものもあり、そのような取引形態を取っていても、暴力団の介入などの弊害は生じていないこと、名古屋市遊技場協同組合が愛産商会から昭和60年代に1、2度、何千万円かを受け取ったこと、愛知県遊技業協同組合連合会も愛産商会から毎年500万円ないし600万円を受け取っていることを認めることができる。

しかし、右3説示のとおり、本件団体取引契約締結の目的が暴力団を団体の力をもって排除するものであることからすれば、団体取引契約の相手方を1社にするか複数にするかは、専ら当該団体がその自治によって決定すべき事柄であり、被告のようにその取引相手を1社に限定して右目的を達成することにもそれなりの合理性が認められる以上、原告が主張するようにそれが論理的に結びつくか否かという観点でとらえることは妥当ではない。また、愛知県遊技業協同組合連合会及び名古屋市遊技場協同組合が愛産商会から右金銭を受け取っていたとしても、被告は、これら協同組合の支部的組織の実態を有しているものの、あくまでもその会計を別にする別個の団体であることを考慮に入れれば、そのことをもって、遊技場業者がいわゆる自家買いをしているとまでは評価できない。

5 以上により、原告の請求原因3の主張は理由がない。

五 原告は、請求原因4のとおり主張するが、その前提とする事実関係については、右四において述べたところと同一であり、右事実関係の下において、被告組合員が本件団体取引契約に従うべきこととする被告組合規約が公序良俗に反し無効とはいえないことは、前記四と同様であるから、原告の請求原因4の主張は理由がない。

六 原告は、請求原因6のとおり主張するが、本件団体取引契約が風俗営業法のいわゆる自家買いに当たると断定できないことは、前記四4のとおりであり、これに前記四3説示の本件団体取引契約の目的ないし態様をあわせ考慮すれば、本件団体取引契約が公序良俗に反し無効であるとはいえず、原告の請求原因6の主張は採用できない。

七 原告は、本件除名処分により請求原因7のとおりの不利益等を受けている旨主張する。

証人Cの証言によれば、原告が被告を除名された後、原告が、遊技場のパチンコ台の新台に入れ替える際、従前から取引関係にあり既にパチンコ台納入契約も済ませていた豊丸産業から、新台導入後の新規開店の1週間前になって、新台納入を断られ、その理由を尋ねたところ、豊丸産業が日本遊技機工業組合から被告を除名されたところには機械を入れるなと言われたとのことであったので、同組合に問い合わせると、愛知県警の防犯担当官から言われて同組合においてそのような趣旨の申し合わせを行ったと言われたこと、原告が他のニューギンというメーカーに機械の納入を頼んでも豊丸産業と同様の対応であったこと、しかし、結局は、原告が豊丸産業と何度も交渉した末、機械の納入を受けることができたこと、パチンコ台導入後行われる検査に際し、通常であれば中警察署の防犯係の担当者が機械番号を見るなど5、6分の簡単な検査で済まされたものが、本件除名処分後は、愛知県警の担当者から、1時間にわたって、パチンコ台の基盤を外すなどの検査が行われたことが認められる。

右各不利益が本件除名処分の結果生じたものであると解されなくもないが、前記四4説示のとおり、右不利益の前提となる除名処分が有効であることを考慮すれば、たとえ本件除名処分の結果として原告に右のような各不利益が生じたとしても、それについて被告の責任を問うことはできないというべきであるから、原告の請求原因7の主張も採用できない。

八 以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 玉田勝也 裁判官 櫻林正己)

裁判官鈴木幸男は転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官 玉田勝也

(別紙)

謝罪通知

当組合は、1989年9月組合員である合資会社ウエスタン(代表者A)に対し、現金交換用の景品を六月産業有限会社から購入したことを理由として除名処分をいたしましたが、右処分は不当なものであって無効であり、右合資会社ウエスタンは正当に本組合の組合員としての地位を有するものでありますので、その旨謝罪とともにご通知申し上げます。

年 月 日

名古屋中遊技場防犯組合

組合長

組合員各位

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